高校の教室の窓の外を眺めると、薄茶の砂の運動場の向こうにマッチ箱のような貨物列車が走っていた。ミニチュアでもなく玩具の線路の上を走る電車の大きさでもなく、喫茶店のマッチでもなく、昔懐かしいマッチ箱の大きさの電車が、ガタゴトガタゴトの音までは聞こえなかったが走っていた。その後住んだ所は、国鉄まだ国鉄と呼んでいた頃、眼下に山陽線が走っていて、長い貨物列車が通過していた。ある日よそから来た小さな男の子が、その光景を見て「うおおー」と吠えた、彼の感動の表現で一番適切だと感じた。それから数年後あの運動場から見ていた貨物列車が、ホームの目の前を走っていた。ガタゴトガタゴト音をたてながらゆっくりと、箱のない台車だけの物には、少し飛べば乗り移れそうな目の前を走っていた。それから三十数年後その貨物線に普通の電車が走りだすらしく、駅がすっかり変わり、貨物列車が通らなくなった。行先表示の無い貨物列車を見ると埃っぽい運動場を連想する。